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SIG P226

SIG P226SIG P226がXM9アメリカ軍用ハンドガントライアルにエントリーしたのは、1981年8月のこと。しかしその1ヵ月後に設定されたトライアル開始日に、SIG Sauerはサンプルを用意できなかった。これはSIGだけの問題ではなく、エントリーしたベレッタ、S&W、H&K、SIG Sauer、コルトの5社で、規定数のサンプルを用意できたのはベレッタとS&Wだけだった。ベレッタは1978年のU.S.エアフォーストライアルから参加し、常にトップの評価を維持し続けていた。トライアルが進行するたび、要求スペックに合致するよう少しずつ製品に改良を加えており、当然、今回の要求仕様にもほぼ合致するモデル92SBを用意することはできた。おそらく関係者とのコネクションも構築され、次に要求されるスペックもある程度、事前にリークされていたのではないかと推測される。
S&Wの場合は1971年に市販開始したモデル59を1980年に改良してモデル459として販売しており、今回のトライアルに提出したモデル459Aは、モデル59のアジャスタブルサイトをフィクストサイトにしただけのものに過ぎない。それでもトライアルでの勝利を信じていたのは、候補となっているモデルの中ではほぼ唯一のアメリカンブランドであったからなのかもしれない。コルトもアメリカ製だが、当時のS&Wはコルトなどもはやライバルとは考えていなかっただろう。
ヘッケラー&コッホは新たにP7を要求スペックに合致するように改良したP7 XM9試作モデルとP7M13の試作モデルを提出 したが、規定要求数である30挺は用意できなかった。
SIGの持ち駒は、P220およびP225であるが、 この要求スペックに対し明らかに対応できていない項目は装弾数に関する部分だった。10発以上、できれば15発以上が望ましいといわれて、P220やP225を提示するわけにはいかない。この時点でSIGにはハイキャップマガジンを使用する製品はなかった。ということは、SIGはアメリカ軍制式ハンドガンの座を狙う意志はなかったということになる。1978年から始まったアメリカ軍のトライアルを知らないはずはない。にも関わらず、それに適合するモデルを開発しようとしなかったからだ。もちろん開発に時間がかかったという見方もできるが、P225の完成度を見れば、それをダブルカラムマガジン化させるのにそれほど時間は必要ないだろう。おそらくSIGがやる気になったのは1980年から1981年にかけてという時期だと推測される。
結局、1ヵ月半遅れて11月上旬にテストが開始されたとき、SIGはP226のサンプルを30挺、予備マガジン360本を用意した。すなわちSIG Sauer P226の誕生は、1981年9月15日から11月上旬までの間ということになる。
しかし1982年2月19日、アメリカ陸軍武器準備指令部の結果発表では、要求を完全に満足させるモデルは無かったとして、次期制式ピストルの決定はお流れとなってしまった。
XM9トライアルの再開は1983年に発表され、1984年1月にトライアルは再開した。この時、SIG Sauerはベレッタを脅かす存在になっていた。P226は関係者の間で評判になり、1984年のどこかの時期に市販も開始されたらしい。この時はインターアームズが輸入したのだろう。SIGの米国法人SIGアームズが設立されたのは1984年末のことだ。SIGはこのトライアルでP226がM9として採用されることを確信していたらしい。その自信はP226の評判がすこぶる良かったからだ。
本来は12月にM9が発表されるはずであったが、トライアルの内容に不満を持ったS&WとH&Kが、このトライアルは無効だと訴訟を起こした結果、発表は約1ヵ月ずれ込み、1985年1月14日となった。
トライアルに遅れて参加したSIGがP226で一気に本命といわれるようになった理由は何なのだろうか。P226の急浮上は、性能的に優秀であった上に、プレス加工スライドといった当時としては量産性に優れた製造法を取り入れていたからではないだろうか。少なくとも当時、ベレッタのスライド製造方法は旧態依然とした削り出しで、形状的にも構造的にも手間がかかるものだった。
しかしSIG P226は要求スペックを完全に満たしてはいない。デコッキングレバーは左側面にしかなく、左手で握った時にデコッキングレバーほ操作するのは、ちょっとコツが必要だ。それでもP226の評価は高かった。
最終的にベレッタがM9に決定したことに対しては、様々な異論が飛び交ったが、ハンドガンを実際に使いこなすプロフェッショナルの多くもP226を好んだ。92Fに比べて、玄人好みであったということだ。NAVY SEALsがM9よりもP226を多く活用したことは有名だ。
P226が市販され、市場から高い評価を得ると、新たに設立されたSIGアームズはP226のバリエーションを次々と登場させた。1988年に登場したP226のコンパクト仕様P228はM11として米軍の制式ハンドガンとして採用されている。ただし、M11の採用は限定的で、空軍のOSI、NCIS、陸軍のCIDなどの採用に留まった。これらはかつて1911A1ではなく、主に38Specialのリボルバーなどを装備していた部署だ。
P229は1992年に発表されたコンパクト仕様で、従来のSIG P220シリーズとは異なり、ステンレススチール削り出しのスライドが搭載された。従来の同シリーズは、スチール板のプレス加工に、ブリーチブロックを組み込んだものであった。これに伴い、P229のスライドデザインは少し異なったものとなった。この工法変更は、その後、他のP220シリーズにも及び、全種ステンレススチールの削り出しとなっている。またデザインの異なるP229のスライドも他のモデルと同様なデザインに改められた。この結果、P228とP229の差別化ができなくなり、P228の生産は終了した。しかし近年、P228はM11A1として復活している。
2000年にSIGの銃器部門は経営母体が変わり、これ以降SIGの製品バリエーションは大幅に増加した。P226にマニュアルセーフティを組み込み、シングルアクション&コック&ロックを可能にしたモデルや、ロングバレル化したモデル、多彩な表面仕上げバリエーションなどが次々と登場している。
2003年にはDAKトリガー組み込みモデルが登場した。これはグロックのプレコックストライカーに対抗するためのトリガーシステムで、DAKとはDouble Action Kellermanの略、ドイツSauerの技術者Harold Kellermanによって開発された。非常に軽くしたDAOであり、連射する場合はショートリセットトリガー機能もある。これを組み込んだ製品は当然、デコッキングレバーは無くなる。
通常のDA/SAモデルの改善も続いている。SRT(Short Reset Trigger)パッケージはシアとセーフティレバーのアップグレードで、これを組み込むとトリガーのリセットトラベル量が約60%まで減少する。これにより連射スピードが向上することは言うまでもない。
2010年には、新型のP226 E2(e-squared)を発表した。これは従来のP226のグリップ形状を変え、より握りやすくしたものだ。他にもビーバーテイルフレームの追加など、多彩なバリエーション展開をおこない、P220シリーズは現在も発展を続けている。

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